歯周病と肺炎
口の中の健康状態と深刻な呼吸器感染症との間には大変深い関連性があります。
この関連性について長く研究されてきました。およそ20年前から研究はされてきました。集中治療室に入院している患者と歯科医院の外来の患者の口の中を比較しました。歯の周りにいる細菌、特に肺炎を引き起こす細菌について調査をする事が目的でした。調査の結果、ICUの約6割の歯の周りにこれらの細菌が住みついていました。
しかし歯科医院の患者には一人も肺炎を引き起こす細菌はいませんでした。そこで私達は入院患者や高齢者福祉施設の患者は口内が細菌に起こされやすい傾向があり肺炎になるリスクが高くなるのではと考え始めたわけです。
歯周病を引き起こす、あるいはそれに関連する細菌は、歯周病の患者の口の中に数多く存在しています。そのような人々は、口の中の細菌を肺に吸い込む可能性が高いといえるかもしれません。特に高齢の患者、中でも物を飲み込むことに障害を持つ患者がこれに当てはまります。これは嚥下障害と呼ばれる状態で、年をとるに連れてよく起こるようになりますが、この嚥下障害を持つ人で、歯周病にかかっている人は口からの細菌を吸い込み肺に入る危険性がより高くなると言えるでしょう。これらの細菌が肺の深刻な感染病の原因になるのです。
食べ物などが食道に入らず気管に入り込むことを誤嚥と言います。歯周病でさらに嚥下障害があると、誤嚥を引き起こした時に肺に歯周病菌が入り込み、それが原因となって肺炎を引き起こすと考えられています。これを誤嚥性肺炎と言います。特に人工呼吸器を使っている患者さんは誤嚥性肺炎を引き起こしやすいのです。呼吸を助けるため口から気道にかけてチューブを取り付けていますが、このチューブによって歯からの細菌はかなり肺に入りやすくなります。
口腔からの感染を抑えること、と言うより口腔の汚染をなくすことです。そこでクロルヘキシジンという抗菌剤を使用することで結果的には肺炎を減少させることが出来ます。
口の中の衛生状態を改善できれば、病院や高齢者福祉施設で肺炎リスクを低減できることはすでに分かっています。実はこのような結論の多くは日本での研究によるものです。
寝たきりの患者さんや老人が誤嚥性肺炎を起こしやすいのです。
単に歯の病気を防ぐためだけでなく、体全体の健康のためにも口の中を綺麗に保つことが重要であるのです。呼吸器の入り口は口なのです。
アメリカでは1990年代にフロスオアダイ(floss or die)(フロスで歯を綺麗にするか死を選ぶか?)という歯周病予防のキャンペーンスローガンです。
口腔内を清潔にすれば死亡率も下がる事が分かっているのです。