歯周病と早産(低体重児出産)
歯周病が次の世代にまで影響を及ぼすということです。
早産とは赤ちゃんが早すぎる時期にしかも体が小さすぎる状態で生まれてくることです。そのような赤ちゃんには様々な病気にかかる危険性があるのです。きちんと呼吸ができなかったり、脳に障害があったり、目が良く見えなかったり、そして早産をした女性は健常児を出産した女性に比べて歯周病にかかっている事が多かったのです。これまで何千人もの女性を対象に歯周病と早産が関連があるかどうか調べられてきました。そして歯周病に罹っている人を治療すると早産の発生率を減少させることができるという事が分かったのです。これは本当に凄い報告でした。20001年の論文では何千人もの患者さんを調べた結果、もしも歯周病に罹っていると罹っていない時に比べて早産する可能性が8倍高いという報告でした。2003年と2004年には他の調査も行われました。その時は何割かの患者さんに歯周病の治療が行われました。そして分かったのは歯周病を治療することで早産を50%以上減少できたという事です。その後の追跡調査も世界中で行われています。
日本でも低体重児と歯周病の研究が行われています。
低体重児が生まれてくる理由は様々です。その様々の原因の一つに母親の歯周病があると考えられています。
歯周病と低体重児出産の関係についてアプローチしています。
歯周病と産科を繋ぐ重大な我々の関心事は早産ですが、37週以上の低体重児とういうのはどんどん増えてきて、今日本でも年間100何万かの出産のうち11%位です。ところがその周産期医療が進歩したために早産のうち20%が妊娠中毒症で、医療的介入(このまま赤ちゃんを入れておくと赤ちゃんが駄目になるなど)が20%あります。一番多いのは早産の50%を占める絨毛羊膜炎という子宮の感染です。残りの20〜30%が破水になります。どちらも子宮の感染です。ところが興味深いことに歯周病が起こっている人の病態と子宮の中に起こってくる感染の病態は似ているのです。そして歯の悪い人に早産が起こりやすいというエビデンス(科学的根拠)も揃い始めたので脚光を浴びてきているのです。
それでは何故歯周病をもつお母さんが早産をする可能性が高いのでしょうか?
歯周病に関わる7種類の歯周病菌というのが歯の根部に歯肉との間にプラークを作り生体と反応している間に生体がTNFとかIL1とか(共にサイトカインの一種)を作って血中に流れていきます。
歯周病になるとそれを防ごうとして免疫機能が働きます。つまり歯周組織の中で歯周病菌と免疫機能との間で激しい戦いが行われるのです。免疫機能はサイトカインという物質を作り出して炎症を抑えようとします。そのサイトカインが歯ぐきの血管から体内に流れ込み子宮に到達して子宮を刺激して早期の出産を促してしまうのではないかと考えられているのです。これが歯周病で早産を引き起こすメカニズムです。
最近では入院中の妊婦さんの歯周病対策をしています。一般的な健康な何の問題のないお母さんのお口の中と比べてみると妊婦さんのお口の中は炎症があり腫れている悪い状態であるのです。それが必ず早産に繋がるかというわけではありません。
特に切迫早産(妊娠37週未満に分娩時の子宮収縮、頸管熟化などの分娩の兆候が認められない状態)の人についてです。そういう妊婦さんを対象とした歯周組織と健康状態の関係を調べてきました。すると歯周組織の健康状態の悪い患者さんは切迫早産をし低体重児が生まれる確率が約5倍高い事が分かりました。その上、口腔内を清潔することによって早産の率が低下することが分かりました。口腔内は歯周病に感染するとサイトカインが出てきます。出産の時にはプロスタグランジン(ホルモンのような働きをする物質。子宮筋に対して強い収縮作用をもつ)のような出産を促す物質が出ますが、サイトカインがそのような働きをしてしまい出産のメカニズムを早く進めてしまい、早産に繋がると考えられています。